女性の病気
月経異常
月経異常には「周期の異常」と「月経量の異常」があります。
周期の異常には無月経(3ヶ月以上月経がない)や稀発月経(月経周期が39日以上)や頻発月経(月経周期が24日以内)があります。これらの原因としてはホルモンの分泌障害、急激な肥満やダイエットなどが考えられます。またこれらの中には排卵を伴わないことが多く、ホルモン療法や排卵誘発剤による治療が必要となることがあります。
月経量の異常には過少月経、過多月経があります。過少月経には排卵障害、黄体機能不全、子宮発育不全などが考えられます。また過多月経には黄体機能不全によるものの他に子宮内膜ポリープや子宮筋腫、子宮内膜症などによる器質的疾患が原因となることがあります。
不正性器出血
不正性器出血には妊娠に伴う出血と妊娠を伴わない出血に分けることが出来ます。
妊娠に伴う出血には妊娠初期には流産、胞状奇胎、子宮外妊娠などが考えられます。
妊娠を伴わない出血には機能性出血(内分泌系の失調により子宮内膜組織が異常に反応して起こるもの)と器質性子宮出血(腫瘍、炎症、外傷などによるもの)があります。
機能性出血はさまざまな内分泌異常によって起こる子宮内膜からの不正性器出血で、思春期から老年期までのあらゆる年代で発生し、不正性器出血の約30%を占めるといわれています。ホルモン療法で治療します。
器質性子宮出血には子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、萎縮性膣炎などの良性疾患だけでなく子宮癌や膣癌などの悪性疾患からの出血も考えられます。精密検査が必要で、手術が必要となることもあります。
更年期障害
更年期障害とは閉経の数年前後(45歳から55歳)から出現する心理的、身体的な不調をいいます。この時期は女性ホルモンが低下し、自律神経が乱れ、動機、めまい、発汗、冷え症、うつ症状に似た状態などが現れてきます。これらの症状が日常生活に支障をきたすようになれば薬物療法が必要になります。薬物療法にはホルモン剤によるホルモン補充療法や自律神経の乱れを改善する漢方薬や自律神経失調治療薬などがあります。
月経困難症
月経時に下腹部通、腰痛、頭痛、嘔吐などを伴う症候群です。これには器質的な疾患を伴わないもの(原発性月経困難症)と器質的な疾患に原因するもの(続発性月経困難症)に分類されます。器質的な疾患がある場合、単に鎮痛剤の投与では改善されませんので、子宮内膜症や子宮粘膜下筋腫などの原因を可能な限り検索していく必要があります。
子宮内膜症
子宮内膜症は子宮の正常内膜以外のところに発生する子宮内膜が要因となって不妊症や月経困難症、性交時痛、排便痛、慢性骨盤痛を起こす疾患です。内診時病変部分を硬結として触れたり、超音波検査にて卵巣の腫大(チョコレート嚢腫)を認めることがあります。軽度のものであれば鎮痛剤で経過観察することが出来ますが、ホルモン療法、手術療法が必要となることがあります。
子宮筋腫
子宮筋腫は婦人科領域の腫瘍の中でもっとも高頻度に見られる良性疾患です。女性ホルモン(エストロゲン)に依存して発育するために閉経までは増大する可能性があります。巨大になると尿閉、水腎症、頻尿などの尿路系の圧迫症状や直腸への圧迫症状による便秘などが出現します。さらに子宮内腔に発生した筋腫は不妊症の原因となったり、筋腫を持ったまま妊娠すると切迫流早産や下腹部痛、分娩時の弛緩出血の原因になることもあります。治療方法としては薬物療法、手術療法があり、挙児希望、年齢、社会的条件を考慮して治療方針を決定します。
不妊症
不妊症の原因としては大きく男性因子、内分泌因子、卵管因子、子宮因子、頚管因子に分けることが出来ます。
男性因子の原因として最も多いのは精巣での造精機能障害で、薬物療法(ビタミン剤)、手術療法(精索静脈瘤)で改善するものもありますがまれに無精子症のこともあります。
内分泌因子としては間脳の障害による無排卵症や副腎皮質、甲状腺などのホルモン異常に原因するものがあります。無排卵には排卵誘発剤(内服、注射)の投与が必要になります。卵管因子は女性の原因で最も多く、クラミジア感染などの性感染症や子宮内膜症の増加は卵管障害の増加の原因となっています。
完全閉塞の場合、体外受精を考慮する必要があります。子宮因子には子宮奇形、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症などがあります。手術により妊娠の可能性があります。頚管因子としては頚管粘液分泌不全、抗精子抗体によるものがあります。人工授精が必要となることがあります。
不育症
妊娠は成立するものの、流産や早産、子宮内胎児死亡を繰り返して、結果的に生児を得ることの出来ない場合を不育症といいます。初期に流産を繰り返すもの(3回以上)は習慣流産といわれています。その原因はさまざまで、遺伝的な異常(染色体異常)、解剖学的な異常(子宮奇形、筋腫)、内分泌的な異常(黄体機能不全、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常)、免疫学的異常(抗リン脂質抗体)などがあります。これらの原因を検索、治療することによって生児を得られることがあります。
避妊法
代表的な避妊方法にはコンドーム、経口避妊薬、子宮内避妊器具、不妊手術などがあります。
コンドームは日本においては最もポプラーな避妊方法です。簡単に使用でき、性感染症の予防にも効果がありますが装着ミスによる失敗も多く見られます。
低用量ピルは女性ホルモン(エストロゲンとプロゲストーゲン)が含まれた薬で、排卵を抑えたり、受精卵の子宮内膜への着床を妨げたり、精子の子宮内への侵入を防いだりする働きがあります。正しく服用すれば避妊効果はほぼ100%ですが、副作用(消化器症状、頭痛、血栓症)がありますので医師による処方、管理が必要です。
子宮内避妊具(IUD)は子宮内にプラスチック製の器具を挿入することによって着床を妨げ、避妊効果をもたらす方法です。一度装着すれば数年は避妊できますし、ホルモン付加されたものはさらに避妊効果が高いといわれています。取り外せば再び妊娠することが出来る利点がありますが、医師によって装着してもらう必要があることと異物が挿入されることによる月経過多、月経困難症、不正出血が見られることがあります。
不妊手術は永久避妊法で、女性の場合は卵管を、男性の場合は精管を結紮または切断して精子や卵子の通路を遮断する方法です。確実な避妊方法ですが、手術後妊娠を希望された場合は体外受精が必要になります。
排尿異常
尿失禁には咳をして腹圧がかかったときに尿漏れを生じる腹圧性尿失禁と急に起こる尿意で我慢できずに尿漏れを起こす切迫性尿失禁があります。またこの両者を合併した混合性尿失禁があります。軽度のものは骨盤底筋体操によって改善することもありますが薬物療法、手術療法が必要となることもあります。
過活動膀胱とは尿意切迫感を必須症状とし、頻尿、切迫性尿失禁を含む症状症候群です。器質的な疾患がなく、残尿のない方には薬物療法が効果的です。
子宮脱
骨盤底の筋肉群や支持組織の脆弱化によって子宮が膣内から脱出するのを子宮脱と言います。子宮だけでなく膀胱や直腸も同時に下垂、脱出することもあります。自覚症状としては外陰部の違和感や出血、尿失禁、頻尿、残尿感などがあり、時に尿路感染症を伴うこともあります。治療方法としてはペッサリーというリングを膣内に挿入して保存的に経過観察する方法と手術による方法があります。
帯下異常
外陰部、膣内に発赤を認め、掻痒感や痛みを感じチーズ様の特有の帯下を認める疾患です。カンジダという真菌によって生じ、妊娠や糖尿病、免疫能の低下した状態のときに発症します。膣錠を挿入したり、外陰部症状が強い場合はクリームを塗擦します。
トリコモナス原虫が膣内に寄生しておりものが多くなったり、においやかゆみを伴ったりすることがあります。膣錠を挿入して治療します。パートナーの治療も必要です。
膣内の正常な乳酸菌以外の細菌が繁殖している状態です。一般的にはあまり問題ありませんが、妊娠している場合流早産の原因となることがあります。
子宮癌
子宮癌には頸部に発生する子宮頸癌と子宮体部に発生する子宮体癌(内膜癌)があります。子宮頸癌の原因の大部分はパピローマウイルスによるものと言われ、近年若年者の発生が増加しています。定期的な検診で早期発見されることが多く、40%以上が0期で発見されています。子宮体癌はホルモン依存性の癌で、近年増加傾向にあります。不正出血が原因で発見されることが多く、閉経後に不正出血を認めた場合は体癌検診も必ず受診しておく必要があります。
性感染症
梅毒トレポネーマによって起こる病気です。近年著しく減少していますが献血や妊婦健診時に偶然発見される潜伏梅毒が多く認められます。感染初期には感染局所に初期硬結を認めたり、リンパ節の腫脹を認めます。進行すると梅毒疹を認め治療が十分に行われないと神経梅毒、血管梅毒を発症します。
淋菌によって起こる感染症で、感染力が強く感染が進むと卵管炎を起こしそれが原因で不妊症となることがあります。
クラミジア・トラコマチスという菌によって起こる感染症です。近年若年者、特に10代の感染者が増加しています。また近年オーラルセックスによってのどの粘膜への感染も多く、症状が進行すると卵管炎、骨盤腹膜炎などを発症し、癒着による不妊症の原因になります。また妊娠時には流早産の可能性が高くなります。
パピローマウイルスによって起こる感染症で、性器や外陰部にいぼを生じます。症状が進むとカリフラワー状に大きくなり切除術が必要になります。
ヘルペスウイルスの感染によって起こる病気で、外陰部にびらん、潰瘍を形成し強い痛みを生じます。
抗ウイルス剤の内服治療が必要です。皮膚の病変が消えてもウイルスの排泄の可能性がありますので性交時にはコンドームが必要です。
HIV(human immunodeficiency virus) の感染によって起こる免疫不全症です。感染経路は性行為感染が大半で、わが国でも男性からの同性間及び異性間性的接触による感染が増えています。